今回は
『外力は治療のツールとなる② 』
です。
前回は治療のツールとなる外力「床反力」について簡単にご紹介しました。
今回は治療のツールとなる外力の二つ目
「慣性力」
についてです。
慣性力とは
物体に加速度が加わったときに、それに抵抗しようとする(状態を維持し続けようとする)力です。
つまり、急に動きが開始されたり、止まったりした時にその前の状態を維持しようとする力です。
日常的にも良く感じる外力です。
例えば、
車が急に止まった時に体が前のめりになる、飛行機で離陸する時やジェットコースースターで急加速する時に体がシートに抑えつけられるといったような力は全て慣性力によるものです。
セラピストの視点から考えると
「運動量制御による立ち上がり」つまり、勢いをつけて立ち上がる時を例にとると分かりやすいです。
正常な立ち上がりでは離殿前に体幹を素早く前傾して、それを大殿筋やハムストリングスで急激にブレーキをかけます。つまり、後下方へ加速度を発生させます。その時発生する「体幹が前上方に進み続けようとする力」が慣性力です。
正常の立ち上がりではそれを使って離殿し、立位になります。
そのため、写真の様に静止画にするとCOP(圧中心)とCOM(身体重心)の関係上、後ろに倒れそうに見えますが、実際には前に動き続けることができます。
そして、
慣性力を使った動作には利点が三つあります。
一つ目は
動作全体としての筋収縮量を減らせる。
二つ目は
慣性力が動作の安定をもたらす。
三つ目は
慣性力という感覚が筋収縮のスイッチになる。
です。
全て説明すると長くなってしまうので三つ目だけ説明します。
人はこの慣性力と重力のベクトルの合力(ゼロモーメントポイント)がCOPと一致するように身体をコントロールしています。
これらが大きく逸脱すると、転倒力が発生します。
そうならないために慣性力を感覚として取り込み、姿勢の調整に反映させる必要があるのです。
慣性力を感じる受容器は前庭系や体性感覚や内臓に存在すると言われている重力感知の受容器と考えられます。
これら受容器から入力された慣性力の情報がCOPの振る舞いをコントロールするための筋活動のスイッチとなります。
感覚が良く、筋の収縮速度も速くて、ゼロモーメントポイントとCOPの関係をうまく保てているうちは転倒はしにくいはずです。
それが出来なくなるのが高齢者です。
その証拠に高齢者は「運動量制御」とは対極の「力制御」で姿勢保持をしますよね。
まとめると、慣性力は「効率的な動作遂行のために必要な力」であり「感覚」ということになります。それを使う事によって筋活動をオートマティック賦活したり、合理的な運動生成を促す事ができます。
みなさんも
「外力を操り、良好な感覚を提供し、良好な運動生成を目指す」
という一連の流れを意識して臨床に取り組んでみてください。
良い結果が出るはずです。
もっと具体的に外力を使ったアプローチの方法を知りたい方はBiNIのセミナーに参加してみてください。
最後までお読みいただきありがとうございました。